君の未来に幸あれ

好きを追って生かされるオタクの備忘録。

君の最愛の人に、世界中のありったけの花を。

気づいたら3月になり、もう1年の1/6が終わっていた。住んでいる部屋の裏には綺麗な桜が咲き始めていて、吹く風もどことなく甘い香りで暖かさを感じる。

 

世界が大変なことになり、早くも丸一年。

決して良いことではないのだが、この生活にも慣れてしまい、日々ただただ毎日を「こなしていく」ようになり始めている。

 

 

 いつもは、ただのしがないアラサーオタクの独り言の様なブログでしかないが、今回だけ、最初で最後のつもりで、私の学生時代からの大事な友人のことを書いていこうと思う。友人に起きた事、聞いた言葉を絶対に忘れてはいけないと感じた。友人本人にこの話をブログで書かせてほしいと許可はもらっている。拙い文章だと思うが、もしよければ最後まで読んでほしい。

 

 

 

3月3日の夜、友人から連絡があった。

「奥さんがなくなった。居なくなった、とかじゃなくて、“亡くなった”」と。

 

この友人は私の高校2年のころからの友人で、10年以上連絡を取っていて何だって話が出来る、私にとって数少ない大事な男友達だ。初めて話した時、というかきっかけ?は、4月のクラス替え後の自己紹介時に記憶にも無いくらいのギャグの様なものを一発かまして、そんな彼を私が冷めた目で見たところからだったと思う。

 

ああ、こいつヤバいな・・・・と思ってはいたが、何故か彼は私によく話しかけてきてくれて、最初こそ塩対応をしていたけれどいざ話してみると音楽の趣味は合うし、割と感情の使い方とかが似ていて気づいたら一番気の許せる男友達になっていたなと思う。成人後、その時の私を”ジャックナイフ”と例えられたが、今は”バターナイフ”程度の性格になったから、まぁそれは良しとしよう。

 

高校時代に彼が大好きだったセクシー女優が今37歳になっていて、ああ、学生時代ももう10年以上も前のことなんだなと感じる。

 

高校を卒業し、成人してからは数回飲みにも行き、ここ数年ではテレビ電話をしながら飲むことも結構あった。彼は地元、私は東京という事で中々すぐには会えないし、今このご時世だから尚更会うことは難しかった。

お互いに大の酒好きということで、そこそこベロベロになるまで電話して飲むこともあったし、中身がまるでないくだらない話もケラケラと笑いながら話していた。

恋人ができただの別れただの、仕事がしんどいだとか、酒が旨いとか。男女でこんなに話が出来るのも面白いし、逆に沈黙が続いても全く気まずくない友人である。

 

そんな彼の一番大事な、最愛の人が亡くなった。12月に同居を始め、1月に籍を入れたばかりであった。籍を入れてから一か月弱で突然亡くなってしまった。

 

彼が「結婚するわ~」とゆるい雰囲気で私に話をしてくれた時は心底嬉しかったし、彼の性格を知ってるからこそ、とうとう結婚したいって思えるくらい素敵な人と出会えたんだなと何だかうれしいだけでなく、照れくさくなる部分が少しあった。

 

去年の年末くらいから、連絡を取り合うことが少なくなり、結婚も決まれば色々忙しいだろなと思っていたし、それこそ頻繁にやっていたテレビ電話での飲みに関しても、同居始めたらそりゃ前みたくは出来ないよなと、”当たり前の変化”として捉えていたし、何なら”便りが無いのは良い報せ”くらいに思っていた。

 

そんな彼からの数か月ぶりの久々の連絡がこれだった。その日、私は昼から酒を飲んでいて、夜にはすっかり酒が抜けていてお気に入りのソファでぐうたらとだらしなく体を休ませていた。

 

最初「はなしできる?」とLINEが来たときに、いつもであれば唐突に電話やらメッセージが来るのに、どうしたんだろと若干感じてはいた。そのメッセージのやり取りの数分後に彼からその言葉を聞いたときの私の第一声は「は?いや、え?は?」だった。現実味が無い言葉を聞いたときに、人間は本当に思考停止をするんだと初めて体感した。恐らく沈黙の時間は今思うと数秒だったと思う。何も言葉が出てこない。言葉の代わりのつもりなのか、ダムが決壊した様に涙が止まらず、声を上げて電話越しでワンワンと泣いてしまった。

 

そこから、彼は淡々と今までに聞いたことのない、色味がまるで無い声で私にここ1か月の出来事を話してくれた。

 

便りが無いのは良い報せとは何のことだ。真逆じゃないか。

 

ただただ私は泣く事しかできず、何一つ言葉が出てこなかった。

 

亡くなった彼女は、多少体が弱いものの、持病とかがあるわけではなく彼が仕事に向かう朝はいつも通りだったようだ。いつもなら鍵を開けて待っててくれるはずが、その日は開いておらず違和感を感じたらしい。いざ部屋に入ると倒れている彼女がいて急いで救急車を呼んだが、そのまま息を引き取ったそうだ。

 

人間は生まれた瞬間から”終わりへの始まり”で、最期に向けた生活を始める。寿命は誰にだってあるし、不老不死なんて現代の科学では到底不可能な話だ。けれど、それにしたって早すぎる。あまりにも突然で早すぎるだろう。

 

彼女の両親は「前を向いていこう、立ち直っていこう」という話を彼にしたそうだ。子供が自分よりも早く人生の終わりを迎えるなんて、それ以上に悲しいことはきっと無いはずなのだが、彼女の最愛の人である彼に対して”親として”かけられる言葉のひとつだったのであろう。

そんなことを言われたら定型文のように、「はい」としか彼は言えないであろう。ただ、「立ち直るって無理だろ」って苦笑いしながら私に彼が言った言葉に私は心から”そりゃそうだよ”って泣きながら言ってしまった。

 

「生きる気力はないよね。」と冗談交じりの様な雰囲気で乾ききった声で私に言う彼は一体どんな表情をしていたのだろう。いつもニコニコとフニャっとした表情で話す彼は、きっと私が今まで見たことの無い表情だったんだろう。

 

5月に予定していた式のキャンセルなど、一か月様々な対応を彼はした。彼女と共通の友人には報告し、高校からの知り合いに関しては私にだけ連絡をしてくれたようだ。いつもふざけた話しかしない私に対して、どんな気持ちでこの話をしたのだろうか。

 

数十分話した後に、「どうしていくか正解は分からんけど・・・・後追いだけはダメってのは分かった。」と、彼が言葉を発した。

 

それを聞いて、私はその日一番大きな声を出し、子供の様に大泣きをしてしまった。その日はテレビ電話ではないものの、声だけで憔悴している彼の表情が想像出来て、頭のどこかで、もし・・・なんて考えてしまっていた自分がいたからこそ、この言葉を聞いて、安心をしてしまい一気に感情が溢れ出てしまった。

 

後追いは、その時一瞬はもしかしたら満たされるのかもしれない。ただ、それは結局”悲しみ”を増やすだけで負の連鎖を増幅するだけで。それを彼は自分自身で理解していて、心底安心した。

 

そこから彼は少し柔らかい声で、彼女のことを話し始めた。今思うと、彼のいわゆる”惚気”のようなものって聞いたことはなくて、まさかこのタイミングで聞くとは思わなかったが、言葉一つ一つが愛に溢れていて、本当に彼は良い人に出会えたんだなと思うと同時に彼女も彼に愛されて心から大事にされていたんだなと感じた。

 

甘いものが好きな彼女にコンビニで売ってるクッキーを買っていくと「いいの~!?」と嬉しそうに大喜びしてくれること。

とにかく出かける事が好きで、彼はインドアだったが毎週のように色々な所に一緒に出掛けたこと。

とにかく心が優しい子だったということ。彼女が自分の顔をタイプだと言ってくれていたこと。

 

どの話も、なんてことない日常的な話なはずなのにどこまでも暖かくて、そこには愛しかなかった。

 

食べ物の好みも全部分かっているから、何を買っていったら喜ぶか、どんな表情をしてくれるか想像出来るのに、もうそれは想像だけで実際に見ることが出来ないこと。

 

めちゃくちゃインドアだけれど、彼女が外に出してくれるおかげで今まで見たことの無い色々なものが見れたこと。

 

「もうちょっと一緒にいたかったな。そんなに難しい事じゃないはずなんだけどな。多くを求めてないのに、もう、いないんだもんな。」

 

世界で起きる出来事、大体の事が金と時間が解決するものだと大人になった今、私は思っていた。ただ、どんなに望んでも、どんなに思っても、現実は変わらない。変えられない。

 

“私は所詮彼と他人だし、当事者じゃないから全てを分かってあげることが出来ない。別に見放すとか突き放すとかではなく、私は敢えて励ましの言葉を送るなんてそんな無責任な事は友達だから絶対にしたくない。頑張るとか、立ち直るとか、そんなのどうしたって無理だよ。立ち直れないよ。だって、どうしたって、もう戻れないんだもん。無理して、頑張ったり立ち直ろうとしなくていいよ。絶対に彼女の存在が頭から無くなる事なんて無いんだもん。

だから、とにかく、ちゃんと飯食って、寝て、生活してね。”

 

私はそう彼に伝えた。

彼はそれに対してどう感じたかは分からないが、考え方や性格がどこか似ているから、”なんか、らしいな”って思ってくれていたら私としては友人として出来る限りの事を伝えられたのかと思う。

 

彼と2時間近く話したあと、泣き疲れて気づいたら朝を迎えていた。目は赤く腫れ、覇気の無い顔だった。朝ごはんも泣きながら食べ、しょっぱいなとか、熱いなとか、それくらいしか感じなかった。

 

そうこうしている内にも、世界は回っていて

人間生きていれば腹も減るし、眠くもなる。

 

まだ生があるうちは、精いっぱい、自分なりに生きていかないといけない。仕事に向かう山手線で、ふと流れてきたある曲の歌詞を聞いて人前でポロポロ涙を流し、出勤した直後に同僚の前で声を出して泣いてしまった。ただ、いつまでこうしていても、世界は回ってるくせに、過去は変わらない。

 

で、あれば私はこの話を心のどこかでそっと包みながら、いつも通り暮らすしかない。悲しみの連鎖は、幸せを作りにくい。だから、だ。

 

彼と話した翌朝、Twitterで繋がっているフォロワーの面白おかしい日常的なオタクツイートや私に対するリプに本当に元気をもらった。みんな、ありがとう、本当ありがとう。そうなんだよね、私は、いつもの様に、生活をしないと。ダメだよね、と。

 

生きてるって、当たり前ではない。

むしろ奇跡的に生かされているのだと思う。

彼を悲しみから掬い上げたり、心にポッカリできた空洞を埋めようだなんて、きっと私の存在なんてちっぽけなもので、あまりにも役不足だろう。でも、”ちょっと話聞いてよ”と言われた時には全力で聞いてあげようと思う。その時は、また前みたいに緑茶サワーとかレモンサワーを飲みながら、夜通しテレビ電話しよう。翌日、二日酔いだわ~なんて言いながら、また懲りずにお酒を飲むんだろうね。

 

 

 

 

彼の最愛の人は、花がとても好きだったそうだ。世界には数えきれないほどの品種の花が存在する。中には、独特な香りを放ったり、何とも言えない色味のものもあるだろう。世界中のありったけの花を集めるなんて、無理難題だけれど一つでも多くの花を彼女に贈れるものなら、贈ってあげたい。

 

 

 

弔いの意味だけでなく、私の数少ない大事な友人に対して沢山の愛を注いでくれてありがとうという気持ちを込めて、だ。

 

 

二人に合った、とびきり美しい花を探してみよう。